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長崎地方裁判所佐世保支部 昭和34年(ワ)96号 判決

主文

被告は原告に対し金百四十五万五千円を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の、その余を被告の各負担とする。

事実

原告指定代理人は「被告は原告に対し金四百十八万六千九百七十七円及びそのうち金二百四十六万五千円につき、昭和三十四年三月二十五日以降完済に至るまで日歩三銭の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする」との判決を求め、その請求原因として

一、訴外浅田工業株式会社(以下単に訴外会社という)は昭和三十三年九月四日現在において次表記載のとおり昭和三十三年度源泉所得税等合計四百九十七万八千百円及び滞納処分費三百円を滞納していた。(〈イ〉表)

〈省略〉

二、他方、訴外会社は被告に対し昭和三十三年九月四日現在において別表(一)記載のとおりの定期預金、定期積立金等債権合計六百五十一万六千円を有していた。

三、平戸税務署収税官吏は昭和三十三年九月四日、旧国税徴収法第十条、第二十三条第一項に基づき、訴外会社の前記各債権を差押え同日その旨を被告に通知すると共に各預金等の支払日に支払うよう通知し、同通知は即日被告に到達した。

四、その後、訴外会社並びに被告の納付額及びその充当関係は次表記載のとおりである。

(一)  源泉所得税及び滞納処分費(〈ロ〉表)

〈省略〉

(二)  法人税(〈ハ〉表)

〈省略〉

なお、右利子税は本税額について法定納期の翌日から完納に至るまで日歩三銭の割合を乗じて計算され(法人税法第四十二条第一項、所得税法第五十四条第一項)、納税義務者が本税の一部を納付したときは、その納付の翌日から本税より納付額を控除した残額により千円未満の端数は切捨てて計算する(法人税法第四十二条第三、四項、所得税法第五十四条第三、四項)。

五、従って、訴外会社の滞納税額は次のとおりである。(〈ニ〉表)

〈省略〉

他に法人税二百四十六万五千円に対する最後に一部納付した日の翌日である昭和三十四年三月二十五日以降完済に至るまで日歩三銭の割合による利子税及び滞納処分費三百円がある。

六、よって、原告は被告に対し原告が差押えた別表(一)の債権のうち

(1)割増定期預金 三八回の二七 金額三百五十二万五千円

(5)普通定期預金 三四九九 金額百万円

(6)定期積立金 B四四八 金額五十六万円

(7)右 同 D二六三 金額百十三万二千円

の各元本債権について順次請求の趣旨記載の金額に充つるまでその支払を求めると述べ

被告の抗弁に対し

一、法人税は申告納税によるものであるから、その税額は納税者自身においてこれを算出した上で法定納付期間内に納付すべきもので、収税官吏から納税義務者に対し納税告知をなす必要はない。

税務官庁はただ納税義務者のなした申告が正当でないことが判明し、又は申告がなされない場合にはじめて、税額の更正ないしは決定をなし、その不足額の納付を求める(法人税法第六章)のみである。

しかも、本件においては平戸税務署収税官吏は、納税義務者である訴外会社に対し昭和三十三年度法人税のうち法定納期昭和三十二年五月三十一日分につき同日付で訴外会社よりなされた確定申告の税額三百五十五万五千七百九十円につき昭和三十三年七月九日付で督促状を発し、これに対する加算税八十九万五千二百五十円につき納期を昭和三十二年七月三十日として昭和三十三年六月三十日納税告知書を、同年八月八日督促状を各発している。

二、本件差押当時、被差押債権額が滞納税額を超過していたことは認めるが、法人税滞納の場合における利子税は一般債権における遅延損害金たる性質を有し、本税に附従するものであるから強制執行法による差押の場合と同様に、滞納処分による差押後に生じた利子税も右差押によって担保される。

しかして、差押以後本税完納に至るまでは毎日日歩三銭の割合による利子税債権が発生するから、この額を考慮にいれると、本件差押を超過差押であると論難するのは当らない。

仮りに超過差押に該るとしても、それは当該差押の違法事由たるに止まり、これが当然無効となるものではない。

三、本件差押当時、被告が訴外会社に対し別表(二)記載の如き貸付金債権を有していたことは認める。

しかしながら、法は国税の使命に鑑み、国税債権に他の総ての公課及び一般債権に優先する地位を与え、例外として、国税の納期より一ケ年前に質権又は抵当権を設定したことを公正証書をもって証明したときは、これらの被担保債権は国税債権に優先して弁済を受けうる(旧国税徴収法第二、三条)とするのみであるから、収税官吏が滞納処分として納税人の第三債務者に対する債権を差押えた場合に第三債務者が納税人に対して有する反対債権をもって右被差押債権とを相殺しうるかについては、相殺制度の本質のみならず、国税債権による差押の法的性質、効力等をも綜合的に考慮しなければならず、また民法第五百十一条もこの趣旨において理解されるべきであるから、同条による相殺をなしうるには差押当時、すでに相殺適状にあることを要し、未だ反対債権の履行期が到来しない場合には、後日その履行期が到来したとしても、かかる差押後の相殺をもって差押債権者である国に対抗できないものと解するのが正当である。しかるときは、本件差押当時において被告の前記反対債権はいずれも未だ弁済期が到来せず、相殺適状になかったこと明らかであるから、被告が訴外会社に対し本件被差押債権と被告の前記貸付債権とを相殺しても、これをもって原告には対抗できない。

もっとも、被告と訴外会社間の手形取引に関し、被告主張の特約の存したことは認めるが、これはそれにより当然に弁済期が到来すると共に相殺の効力を生ずる停止条件付相殺契約とは解し難く、むしろ将来における相殺権を被告に与える旨の相殺予約であって、これに基づく相殺の効力は相殺予約完結の意思表示をまって初めて生ずる。

しかるに、被告が訴外会社に対し相殺の意思表示をしたのは、本差押後の昭和三十三年九月六日であることは被告の自認するところであるから、被告の右相殺の意思表示は依然として原告に対抗できない。

と述べ、

立証として甲第一ないし第五号証、第六号証の一、二、第七、八号証を提出した。

被告訴訟代理人は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする」との判決を求め、答弁として、

請求原因第一項は不知。同第二、三項は認める。同第四項中、被告が支払をなした点は認めるが、その余は不知。同第五項は不知。

と述べ、

抗弁として

一、国税徴収のためには旧国税徴収法による納税告知をなし、更に同法第九条による督促をなした上、その期限内に完納されない場合に初めて滞納処分による差押をなすべきで(同法第十条第一号)あるのに、本件差押については右要件を充足していないから本件差押は無効である。

二、滞納処分としての差押は滞納税金を徴収するに必要な範囲、すなわち、その当時における滞納税額及び滞納処分費の合算額を限度としてこれをなし、(国税徴収法第四十八条第一項)その後に生じた新たな利子税及び滞納処分費については、改めて滞納処分を行うべきであって、ただ例外的に債権差押の場合に一口の債権額が滞納税額を超過するときも、その全額を差押えることが許されるに過ぎないのであるが、この場合においても、なお金銭債権のような可分債権については、滞納税額に相当する部分に限り差押えるのが妥当であることは同条第二項の趣旨に照らし明らかであるのに、本件差押は滞納税額及び滞納処分費合計四百九十七万八千四百円に対し、これを遙かに超過する七口合計六百五十一万六千円の債権に対してなされたものであるから、本件差押はこの点でも当然無効たるを免れない。

三、仮りに、本件差押が当然無効ではないとしても本件差押に基く原告の取立権は差押名義たる滞納税額及び滞納処分費の範囲内に限らるべきこと国税徴収法第六十七条第三項の規定に徴し明らかであるところ、訴外会社及び被告は、本件差押後原告主張の金額を納付しているので、原告の取立権は右一部納付額を控除した滞納税残額の範囲に止まるべきである。

四、仮りに本件差押が有効であって、原告にその主張どおりの取立権があるとすれば、被告は訴外会社に対し、別表(二)記載のような貸金債権合計六百十万六千円を有していたところ、被告と同会社との間には、手形取引に関する約定第九条第一項「左ノ場合ニ於テハ債務ノ全額ニツキ弁済期到来シタルモノトシ借主又ハ保証人の貴庁ニ対スル預金其他ノ債権ト弁済期の到否ニ不拘任意相殺相成候共異議無之」並びにその第三号「借主又ハ保証人ニ就キ仮処分、差押又ハ仮差押ノ申請、支払停止、破産若クハ和議ノ申立アリタルトキ」なる特約がなされていたので、訴外会社は本件差押を受けたことによって被告との右特約に基づき前記借受金債務について期限の利益を失った。そこで被告は、昭和三十三年九月六日被告に対する訴外会社の預金債権中期限未到来分については期限の利益を放棄し、定期積立金については払込懈怠を理由にこれを解約した上、同日訴外会社に対し前記貸付金六百十万六千円と同会社の被告に対する別表(一)記載の預金債権中(4)の番号三三七七号普通定期預金十万円及びこれに対する同日までの利息金六千円を除外したその余の各預金債権並びにこれに対する次表記載の如き利息合計六百五十万三千九百二十八円とを対等額で相殺する旨の意思表示をなした。(〈ホ〉表)

〈省略〉

五、しかして、被告は原告に対し昭和三十三年九月八日相殺残額金三十九万七千九百二十八円を、同月十五日戻利息合計金二万八千百四十四円を、同年十月四日別表(一)(4)普通定期預金元利合計金十万六千円を各支払った。

仮りに被告の訴外会社に対する前記相殺が認められないとすれば被告は原告に対し昭和三十五年三月二十一日の本件口頭弁論期日において被告の有する別表(二)記載の各債権をもって同表記載の順序に本訴請求債権とその対等額において相殺する。

以上の次第で、原告の本訴請求債権はすべて支払済である。

と述べ

右抗弁に対する原告の主張につき

一、原告は国税滞納の利子税は一般債権における遅延損害金たる性質を有するから、差押後に生じた利子税も本税の差押によって当然に担保されると主張するけれども、民事訴訟法による強制執行としての取立命令と滞納処分における取立命令とはその性質を異にし、後者はその取立と同時に当然国税を徴収したものと看做され(国税徴収法第六十七条第三項)、他の債権者の配当要求をいれる余地がない点で、むしろ民事訴訟法上の転付命令に近い。

加えるに、同法上の強制執行も債務名義が元本のみに関するものであれば、これによる効果は元本債権の範囲内に止まり、その他の利息ないし損害金に及ばないこと勿論である。

二、国税債権が一般債権に優先すること明らかであるが、原告の本訴請求権は国税債権そのものではなく、滞納処分として差押えた訴外会社の被告に対する預金債権の代位請求であって、他の一般債権に比し同等の優先的効力をも認められない。

従って、被告は訴外会社に対する前記債権が本件差押以前に成立している以上、その差押当時未だ相殺適状になくとも、その後履行期の到来によって相殺適状となった時に何時でも相殺できる最高裁昭和二十七年五月六日第三小法廷判決民集六巻五号五百十八頁参照)。

と述べ

甲各号証の成立を認めた。

理由

一、成立に争いのない甲第一号証によると、訴外会社は昭和三十三年九月四日現在において請求原因第一項記載とおりの昭和三十三年度源泉所得税、同年度法人税及びこれに対する加算税、利子税、延滞加算税等合計四百九十七万八千百円並びに滞納処分費三百円を滞納していたことが認められる。

他に右認定を左右するに足る証拠は何もない。

他方、訴外会社は昭和三十三年九月四日現在において被告銀行に対し別紙(一)記載どおりの定期預金及び定期積立金等合計六百五十一万六千円の預金返還請求権を有していたところ、平戸税務署収税官吏は同日旧国税徴収法による前記国税の滞納処分として右各債権を差押え、被告にその旨の通知をすると共に各預金を原告にその支払日に支払うよう通知し、同通知は即日被告に到達したことは当事者間に争いがない。

二、成立に争いのない甲第五号証によると訴外会社が前記滞納法人税源泉所得税及び滞納処分費等のうち請求原因第四項記載の金額を納付したことが認められるし、また、被告において同項記載の金額を納付したことについては当事者間に争いがない。他に訴外会社もしくは被告において一部納付したことを認むべき証拠もないから、訴外会社の前記滞納額より右一部納付額を控除すると、その残額は請求原因第五項記載のとおりである。

三、そこで被告の抗弁につき順次判断する。

(一)  被告は、国税滞納処分による差押の前提として、収税官吏は納税者である訴外会社に対し、旧国税徴収法による納税告知及び督促手続をなすべきであるのに、本件差押についてはこれらの手続が遵守されていないから本件差押は無効であると争うけれども、法人税はいわゆる申告納税(法人税第十八条)であって、収税官吏において税額の法定ないしはこれが納税告知をなす必要はなく、ただ納税義務者において全く申告をしないか、申告をしても申告額が正当でない場合に正当な税額の決定又は更正をなし、その不足額の納付を求めるに過ぎないことは、同法第二十九条、第三十条に明定されているところであり、しかも、成立に争いのない甲第八号証によると、平戸税務署収税官吏は、訴外会社に対し、本件昭和三十三年度法人税無申告加算税の納税告知書を発したことが認められるから被告の右抗弁は理由がない。

(二)  次に被告の超過差押の抗弁につき検討する。

平戸税務署収税官吏は訴外会社に対する昭和三十三年度源泉所得税、法人税等の滞納額四百九十七万八千百円及び滞納処分費三百円合計四百九十七万八千四百円の滞納処分として、同会社の被告銀行に対する定期預金債権合計六百五十一万六千円を差押えたこと先に認定したとおりである。

従って、本件差押当時被差押債権額が滞納税額を百五十三万七千六百円超過していたことは明らかであるが、法人税を延滞した場合にはその本税滞納額の他に法人税法第四十二条の定める所により、法定納期の翌日から完納の日まで当該税額百円につき一日三銭の割合による利子税を加徴され、かつ滞納処分による差押以後完納までの利子税もその差押によって当然に担保されるものと解すべきであるから、これらの点を考慮さるときは、単に前記数額の超過事実のみから本件差押を違法と目すべきではない。

のみならず、仮りに本件差押処分が右のような超過事実により違法であるとしても、それは当該差押の当然無効を招来するものではなく、単に納税人(訴外会社)の不服申立に基づく取消事由となるに止まるものと解すべきところ、訴外会社からその旨の不服申立がなされたことについては被告は何等の主張、立証もしないので、この点に関する被告の抗弁も採用するに由がない。

(三)  次に被告の相殺の抗弁について案ずるに、被告は第一次に、昭和三十三年九月六日訴外会社との間で、同会社に対する被告の別表(二)記載の債権合計六百十万六千円と訴外会社の被告に対する別表(一)記載の預金債権及びこれに対する利息債権の合計のうち、同表(4)の普通定期預金十万円及び之に対する同日までの利息金六千円を除いた六百五十万三千九百二十八円とを対等額で相殺したと主張しているのであって、被告が訴外会社に対し別表(二)記載の貸付金債権を有していたこと、右貸付に際し、被告と訴外会社間に、借主又は保証人につき仮処分、差押又は仮差押の申請、支払停止破産もしくは和議の申立ありたるときは債務の全額につき弁済期到来したものとし、これと借主又は保証人の被告に対する預金その他の債権と弁済期の到否に拘わらず、任意相殺されても何等異議なき旨の特約がなされていたこと、被告は訴外会社に対し昭和三十三年九月六日右特約に基づき前記被告主張の相殺の意思表示をしたことについては当事者間に争いがない。

そこで前記相殺の意思表示の効力について考えてみるに、なるほど国税及びその滞納処分費は他の総ての公課並びに一般債権に優先するのが原則である(旧国税徴収法第二条)が、それは飽くまで納税人の財産より徴収する場合においてであって、国が国税徴収のために納税人以外の第三者である第三債務者に対する納税人の債権を差押えた場合にまで右国税債権優先の原則が適用されるものではないものと解するのが相当であって、かかる場合においては、国は当該差押により納税人に代位して私法上の債権である被差押債権の取立権を取得するに止まり、第三債務者の有する相殺権の行使までも当然に制限するものではないというべきである。

従って、その差押なかりせば、第三債務者として当然相殺適状を生じたときに自働債権をもって相殺できたであろうことが通常期待されるような場合には、国税債権徴収のためであっても、第三債務者の全く関知しない右差押によって同人の有する相殺期待権を害することのないように保護すべきであるから、たとえ、国が滞納処分として納税人の第三債務者に対する債権を差押えた場合に、その差押当時相殺適状になくても、後日相殺適状となったときに第三債務者は当該差押前に取得した納税人に対する反対債権をもって被差押債権と相殺できるものといわなければならない。

もっとも、旧国税徴収法第三条によれば、納税人の財産上の質権又は抵当権を有する者がその質権又は抵当権の設定が国税の納期限より一ケ年前にあることを公正証書をもって証明したときは該物件の価額を限度としてその債権に対して国税を先取させない旨を規定しているので前記結論に従うと、対国税徴収の関係において相殺権を質権又は抵当権より優遇するような結果になるけれども、これも右相殺の本質を考え併せると、何等不合理というには当らない。

しかしながら、かような相殺を認めるとしても、第三債務者の納税人に対する自働債権の弁済期が受働債権である被差押債権の差押当時、未だ到来していない場合には、その弁済期は少くとも受働債権のそれより早く到来するものでなければならないと解するのが相当である。

蓋し、被差押債権の差押後においても第三債務者に右の如き相殺を認めようとするゆえんのものは、対立債権を有し、将来相殺適状を生じたときには相殺をなしうるという第三債務者の期待利益を差押によって奪うべきではないというにあることを考えると、第三債務者の有する自働債権の弁済期が受働債権のそれより後である場合には第三債務者はもともと受働債権の弁済期が到来してその請求される限り無条件にその弁済に応ぜざるを得ず、自己において弁済期未到来の反対債権を有することを理由にその請求を拒みえない立場にあるから、その間に相殺をなしうることを期待することはできない。

この場合には第三債務者は債務者が弁済期以後も請求することを遅延するような偶然事由によってのみ、相殺可能となるに過ぎないのであって、これを特に保護すべき必要性に乏しい。

これに反し、受働債権たる被差押債権の差押当時第三債務者が既に成立している反対債権を有し、しかもその弁済期が受働債権のそれより先に到来するものについては第三債務者は反対債権の弁済期が当該差押の前後いずれであるを問わずやがて弁済期の到来と共にこれをもって受働債権と相殺することが通常期待できる立場にあるから、この場合には第三債務者は後日相殺適状を生じたときにこれが相殺をなしうるものというべきである。

そこで、叙上のところを本件につき当てはめてみると、

被告は訴外会社に対し別表(二)記載の各債権合計六百十万六千円を有し、他方訴外会社は被告に対し昭和三十三年九月六日現在において別表(一)記載の各預金債権及びこれに対する利息債権合計六百六十万九千九百二十八円を有し、被告が同日訴外会社に対し別表(一)(4)普通定期預金番号三三七七の元利合計十万六千円を除きその余の同表記載の債権合計六百五十万三千九百二十八円と前記被告の反対債権とを対等額で相殺する旨の意思表示をなしたこと前認定のとおりである。

しかして、被告の訴外会社に対する別表(二)の各債権はいずれも本件差押の以前に成立したことは明白であるが、別表(一)の被差押債権のうち同表(2)普通定期預金番号三三三六、金額十万円、支払日昭和三十三年七月三十一日並びに同表(3)普通定期預金番号三三五二、金額十万円、支払日昭和三十三年八月三十一日はいずれも被告の反対債権(別表(二))のいずれよりも弁済期が先に到来するので相殺の対象とはなりえず、また同様(1)割増定期預金番号三八回の二七、金額三百五十二万五千円、支払日昭和三十三年九月十六日に対して相殺に供しうる被告の反対債権は弁済期が先に到来する別表(二)(7)貸付日昭和三十二年二月十五日金額百万円、弁済期昭和三十三年九月七日、同表(1)貸付日昭和三十三年六月七日、金額百七万円、弁済期同年九月八日の二口合計金額二百七万円のみであるからこれを対等額で相殺すると残額は百四十五万五千円となる。

本件被差押債権のうち右以外の別表(一)(5)ないし(7)合計二百六十九万千円は被告の別表(二)(8)、(2)、(3)との相殺によっていずれも消滅したこととなる。

以上の次第で被告の右相殺の抗弁は前記限度で理由があるので、予備的な本件口頭弁論期日における相殺の主張については判断するまでもない。

四、被告が昭和三十三年九月十五日自己の貸付債権の相殺による戻利息合計金二万八千百四十四円(別表(二))、同年十月四日別表(一)(4)普通定期預金番号三三七七の元利合計金十万六千円並びに同年九月八日前記相殺残額として金三十九万七千九百二十八円を原告に支払ったことについては当事者間に争いがない。

しかして、原告は本訴において本件被差押債権のうち別表(一)(1)、(5)、(6)、(7)の各元本債権についてのみ請求し、しかも右表(5)、(6)、(7)の各債権の全部及び同表(1)の債権のうち金二百七万円はいずれも前記相殺によって消滅したこと右説示のとおりであるから、原告は被告に対し別表(一)(1)の債権の相殺残額百四十五万五千円についてのみ取立権を有するに過ぎないこととなる。

なお、原告は右請求金額につき被告等が最後に一部納付した日の翌日から完納まで日歩三銭の割合による利子税相当額を請求しているけれども、本件訴訟は前記のとおり原告が訴外会社に対する国税滞納処分として同会社の被告に対する本件預金債権を差押え訴外会社に代位してその支払を求めるものであるから、これに対し法人税法第四十二条第一項の利子税が加算される筋合はなく、右預金債権及び之に対する利息金について、本件国税債権及び利子税の取立をなし得るのにとどまるところ、他方原告の訴外会社に対する国税債権額は右認定のとおり四百十八万六千六百七十七円及びそのうち法人税二百四十六万五千円に対する昭和三十四年三月二十五日以降完済に至るまで日歩三銭の割合による利子税債権となるにも拘わらず、本件被差押債権のうち原告が本訴において被告より取立うる金額は前記のとおり別表(一)(1)の債権のうち百四十五万五千円に止まり、しかも原告は本件被差押債権自体に対する利息金からは前記国税債権取立のための請求をしておらず、従って、右取立可能の金額は原告の訴外会社に対する右利子税債権を除いたその余の国税債権額の一部に相当するに過ぎないから本訴において原告が被告より原告主張の利子税相当額を取立てうる余地は全くなく、原告の右請求は失当である。

五、よって、原告の本訴請求のうち、金百四十五万五千円の支払を求める部分は正当として認容し、その余は失当としてこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条、第九十二条を適用して主文のとおり判決する。

別表(一)

〈省略〉

別表(二)

〈省略〉

(注) 戻利息とは弁済期前に相殺を行ったから相殺の日から弁済期までの利息を払戻す額を指す。

〈省略〉

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